メール送信経路の洗い出し方 — 「送信システム台帳」テンプレート付き
最終更新: 2026-08-07
DMARCをp=rejectへ引き上げてよいかどうかは、突き詰めれば一つの問いに行き着きます。「自社のドメイン名でメールを送っているシステムを、すべて言えますか?」
即答できる会社は、ほとんどありません。メール送信は、情シスの知らないところで増殖するからです。この記事では、見落としやすい送信元のリストと、洗い出しの具体的な4ルート、そのまま使える台帳テンプレートを提供します。
見落としがちな送信元リスト
チェックしてみてください。「あ」と思うものが1つはあるはずです。
- 問い合わせフォーム・予約システムの自動返信
- WordPressなどWebサイトからの通知(プラグインが直接送信していることも)
- 請求・会計、採用管理、勤怠、電子契約などの業務SaaS
- CRM・MA・カスタマーサポートツール
- 複合機・NAS・監視機器のアラート送信
- 海外拠点・子会社・外部委託先が契約したツール
- 年に1回しか動かないシステム(年末調整、株主通知、更新案内)
最後の「年1回システム」が最大の伏兵です。1か月のレポート観測では絶対に現れません。
洗い出しの4ルート
ルート1:DMARCレポート【技術面から】
p=noneでDMARCを設定すると、自社ドメイン名で送られたメールの送信元が、世界中の受信事業者から報告されてきます。机上の調査では出てこない「実際に送っているもの」が全部見える、最強の棚卸しツールです(→レポートの読み方)。最低2〜4週間、できれば年次イベントを跨いで観測します。
ルート2:部門ヒアリング【組織面から】
各部門に1つだけ質問します。「お客様や社外にメールが飛ぶツール・サービスを使っていますか?(自動送信含む)」。マーケ、人事、経理、店舗——メールを送るのは情シスではなく現場です。
ルート3:経理データ【契約面から】
SaaSの請求一覧・法人カード明細から、メール送信機能を持ちそうなサービスを抽出します。退職者が契約したまま忘れられたツールは、ここで見つかります。
ルート4:DNSの既存レコード【痕跡から】
現在のSPFのinclude:、_domainkey(DKIM)のレコードは、過去に誰かが設定した送信サービスの痕跡です。「このincludeは何の契約?」に答えられないレコードは、要調査リストに載せます。
送信システム台帳テンプレート
洗い出した結果は、次の形式で1枚にまとめます(コピーしてお使いください)。
| 項目 | 記入例 |
|---|---|
| システム/サービス名 | ○○メール配信サービス |
| 用途 | メルマガ配信 |
| 差出人(From)ドメイン | news.example.com |
| Return-Path | 独自設定済み(bounce.news.example.com) |
| DKIM | カスタムDKIM有効(セレクタ: xxx) |
| SPF該当箇所 | include:_spf.xxx.jp |
| DMARC状況 | アライメント合格を確認済(2026-08) |
| 契約部門/担当者 | マーケ部・山田 |
| 解約時の手順 | include削除/CNAME 2本削除 |
台帳の効能は3つ。①reject移行の判断材料になる、②解約時の消し忘れを防げる、③担当者が交代しても「このレコードは何か」に答えられる。
運用ルール — 台帳を死なせない2つの仕組み
- 入口:新しいSaaS・ツールの導入手続きに「メール送信の有無」チェック欄を設け、有りなら台帳登録と認証設定をセットにする
- 出口:解約手続きのチェックリストに「DNSレコード削除・台帳更新」を入れる
この2つを回すだけで、台帳は生き続けます。逆にどちらか欠けると、1年で現実と乖離します。
よくある質問
Q. 洗い出しにどのくらい期間を見ればいいですか?
A. ヒアリングと契約調査は1〜2週間で終わります。DMARCレポートの観測は最低2〜4週間。低頻度システムを考慮すると、reject移行までは2〜3か月の計画が現実的です。
Q. 台帳の管理は誰の仕事にすべきですか?
A. DNSを変更できる人(情シスまたは外部委託先の窓口担当)に一元化するのが原則です。分散すると、誰も全体を知らない状態に逆戻りします。
Q. 把握できない送信元が最後まで残りました。止めていいですか?
A. 「誰も知らない=正規の業務で使われていない可能性が高い」ですが、念のためquarantineを挟んで影響を観測してからrejectへ進むと安全です(→reject移行チェックリスト)。